大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(行コ)46号 判決 1968年2月15日

控訴人

右代表者・法務大臣

赤間文三

東京都武蔵野市吉祥寺二、八六四番地

控訴人

武蔵野税務署長

立花義男

控訴人ら指定代理人

林倫正

戸村茂

吉田恭三郎

半田竜次

石川一二

東京都渋谷区代官山町一七番地

被控訴人

中村堯彦

右訴訟代理人・弁護士

中条政好

右当事者間の昭和四一年(行コ)第四六号給料差押処分不許控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら指定代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求はいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、以下に付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。

(控訴人らの主張)

本件課税決定通知書ならびに納税告知書が被控訴人方に転送されなかったとしても、被控訴人の旧住所であり送達場所である武蔵野市吉祥寺二、六三一番地の、同人が居住していた同じ屋敷内の藤田岩雄方または同人経営の藤田貿易株式会社に送達されているところ、藤田岩雄は被控訴人の妻の父で、右のように同じ屋敷内に居住し、従来から被控訴人に対する郵便物は前記藤田貿易株式会社の事務所の郵便受(郵便受は一つで、これら関係者のために利用されていた)に配達されることが多く、藤田岩雄または藤田貿易株式会社には、被控訴人の郵便物の受領代理権があったところ、被控訴人がその主張のように転居した後においても、その郵便物は符箋を付して転送されたものもあるのであるから、被控訴人は転居に際し藤田または右会社に受領代理権を与えたか、そうでないとしても右のような特殊な関係にある者は原則として、受領代理権があるものというべく、藤田または右訴外会社が前記決定通知書、納税告知書を受領することにより、被控訴人に対する送達がなされたものといわなければならない。

かりに右受領代理権がなかったとしても、右のような事情のもとでは、藤田方に送達されれば、被控訴人の勢力範囲内に送達され、被控訴人において了知しうべき状態にあったものというべきである。

以上のように決定通知書が被控訴人に送達されたと認めるべきである以上、本件租税賦課処分に何らかの瑕疵があったとしても、それと滞納処分とは、それぞれ独立の法律効果を目的とする別個の処分であるから、本件滞納処分そのものについて違法がない以上、被控訴人の主張は理由がない。

(被控訴人の主張)

一、控訴人ら主張の昭和三二年四月一八日の給与等債権差押は、第三債務者株式会社大林組に送達されなかったので、控訴人ら主張の時効中断の効力は生じなかった。

二、控訴人らの前記主張は否認する。

(証拠関係)

被控訴代理人は甲第九号証を提出し、当審における被控訴本人尋問の結果を援用し、乙第七、第九号証の成立を認め、乙第八号証の成立を不知とし、控訴人ら指定代理人は乙第七、八、第九号証を提出し、当審証人望月貞而の証言を援用し、甲第九号証の成立を認めた。

理由

当裁判所の本件に対する判断は以下に付加するほか、原判決理由と同一であるから、これを引用する。

成立に争いない乙第四号証、乙第九号証、当審証人望月貞而の証言により成立の真正の認められる乙第六号証、原審証人藤田八重、原審と当審における被控訴本人尋問の結果を総合すれば、本件建物は藤田貿易株式会社の事務所兼工場に使用されていた建物であって、被控訴人は一時藤田岩雄および右会社と同じ敷地内に居住していたことはあるが本件建物とは別の建物に居住していたものであること、被控訴人は昭和二四年大学卒業以来株式会社大林組に勤務しており、藤田貿易株式会社を含む藤田岩雄の主宰する一切の事業に関係していないこと、昭和三二年四月被控訴人が世田谷税務署から本件課税の滞納処分としてその給料を差押えられたことから、被控訴人は驚いて藤田と同道して(またそれとは別に藤田単独でも)同署に出頭し、係員に本件建物は被控訴人の所有でなく、被控訴人に譲渡所得のないことを説明し、藤田において責任をもって納税することを約し、同年五月二一日ごろ同人において、その主宰する藤田商事株式会社振出の先日付小切手二通を受託証券として納付し、被控訴人に対する給料差押は解除されたこと(右小切手はいずれも不渡となった。)、以上の事実が認められ、これらの事実と、前記各証言、供述を総合して考えれば、本件建物が被控訴人所有のものでなく、藤田貿易株式会社または藤田岩雄のものであって、藤田が事業の危機に対処する必要から被控訴人に無断で本件建物を被控訴人名義に登記し、その名で他に売却したものであるにすぎないことを認めるに十分である。したがって被控訴人に本件譲渡所得による納税義務の発生するいわれはなく、右のような事情だからこそ、昭和二九年一一月二日の課税決定通知書、納税告知書が前記(原判示)のように藤田貿易株式会社事務所の郵便受に入れられた場合、これを藤田岩雄が被控訴人の転居先に転送方郵便局員に依頼したり、直接被控訴人にこれを交付したり、あるいはその事実を被控訴人に知らせることは、考えられないところであり、また控訴人ら主張のように、右各書類につき、藤田ないし前記会社に受領代理権があったとか、被控訴人の勢力範囲に送達されたとか認めることは困難であり(郵便局の配達上の責任の有無の問題として右のような理論を考えるのは別として、法律効果の問題すなわち行政処分とか意思表示の到達の問題として、これを認めることはできないと解すべきである。)、この点からみて、右賦課処分は被控訴人に対し効力を生ぜず、その有効になされたことを前提とする本件差押処分は違法というべきである。なお、被控訴人が前記昭和三二年の差押処分の際に課税内容をたまたま了知したとしても、有効に課税処分の通知があったとはいえない。また、以上の認定のもとでは、賦課処分に瑕疵があっても差押処分が独立の処分であるから有効であるとの控訴人らの主張は理由がないことは明らかである。

よって被控訴人の請求を認容した原判決は正当であるから本件控訴を棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 小堀勇 裁判官 藤井正雄 裁判官 藤井正雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例